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特許発明技術解説ブログ「毒性予測方法及びその利用」(特許第6941353号)

​◼️はじめに

 2010年代は、ディープラーニングのブレークスルーを筆頭に、機械学習アルゴリズムの性能が飛躍的に向上した時代でした。大量のデータから複雑なパターンや非線形な関係性を認識する能力が進歩し、高精度な画像認識や自然言語処理が可能となりました。

このような潮流の中、機械学習により計算機負荷が大きい化学計算を代替しようとすることは自然な発想であり、O. Anatole von Lilienfeldらによる2本の論文が発表されます。

 

・O. Anatole von Lilienfeldらによる論文 "Fast and Accurate Modeling of Molecular Atomization Energies with Machine Learning"(2011年) では、分子の原子化エネルギーを機械学習を用いて高速かつ正確にモデリングする手法が提案されました。

・同グループによる論文 "Big Data meets Quantum Chemistry Approximations: The ∆-Machine Learning Approach"(2015年) では、膨大な計算負荷がかかる高精度な量子化学計算(量子力学近似)の結果を、機械学習(∆-Machine Learning)によって効率的に補完・代替できる可能性が示されました。

 

 この後、材料開発・探索、創薬の分野で、機械学習を化学物質探索や物性予測に利用する研究開発が盛んになり、特許も多く出願されています。

 本件は、このような時代背景の中、比較的早い時期に出願された機械学習の量子化学分野への応用発明です。量子化学計算で最適化した3次元分子構造から分子記述子を生成し、この分子記述子を入力とする機械学習を使って化学物質の毒性の有無の確率を算出する技術で、量子化学の研究者である岐阜大学 和佐田 教授のチームにより発明されました。

 

◼️発明の概要

 本件発明は、以下の流れで化学物質の毒性の有無を予測します。

(1) 化合物構造情報の入力: 化合物の構造情報(SMILES表記や2次元フォーマットなど)をユーザーが入力

(2) 量子化学計算による 分子の立体配座最適化

半経験的法、非経験的法、DFT、MM、QM/MM などの方法を使って、エネルギー的に最も安定な分子の立体配座を計算

(3) 分子記述子の生成: 最適化された3次元構造から、分子の物理化学的特徴を示す分子記述子を生成

(4) 機械学習モデルによる毒性確率の算出 : SVM、NN、RF、AdaBoost、ベイジアンネットワークなどを使って毒性の確率を推測

 

◼️本件発明の効果

本件発明は、未知の化合物であっても、化学式さえ分かれば実験を行わずにコンピュータ上で毒性を予測できるという利点を持っています。

・新薬・新素材開発の高速化: 医薬品、農薬、化粧品、添加剤などの開発において、合成・実験を行う前のスクリーニング段階で「毒性リスクの高い候補」をあらかじめ排除できます。

・コストの最小化: 高価な試薬や動物実験を必要とするプロセスを最適化し、安全性評価に要する期間を短縮します。

 

◼️機械学習の応用発明

 2010年代、機械学習の応用発明の出願が盛んになった時期、特許庁から出されたガイドラインによれば、全体として通常のソフトウェア特許と同様の特許要件が求められるものの、機械学習モデルについては入力と出力が定義されていれば、モデルの中身(モデルの種類、パラメータ等)までは特定しなくても良いということになっていました。このため、本件発明でも、機械学習モデルの入力(正規化された分子記述子)、出力(毒性の有無の確率)は定義されていますが、機械学習モデルの中身については定義されていません。これにより、将来的に新たな機械学習アルゴリズムが登場した場合でも権利が及ぶ、汎用性の高い権利範囲の確保ができています。

                                                                                                                                                                    2026年7月1日 田中 洋一

​©Hatsumei Japan Patent Firm

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