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​特許発明 技術ブログ 第3号 「量子情報処理方法、古典コンピュータ、ハイブリッドシステム、

                                                   及び量子情報処理プログラム」  (特許第7478385号) 

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◼️はじめに

 本件は、量子コンピュータ分野の研究サポート、コンサルタント、ソフトウェア開発を行う企業である株式会社QunaSysが独自に開発した「Quantum-Selected Configuration Interaction(QSCI)」に関する特許です。QSCIは、通常のコンピュータ(古典コンピュータ)と量子コンピュータの両方を使って量子化学計算をおこなう計算アルゴリズムです。

 QSCIは近い将来に実現するであろう原始的な量子コンピュータNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum device:ノイズがある中規模量子コンピュータ) でも利用可能なアルゴリズムで、重要な基底の選択に量子コンピュータによる測定結果を用いることを原理としています。

基底の選択以外は、古典コンピュータを使う一般的なアルゴリズムにより量子計算をおこなうことから、量子コンピュータの計算結果に多少ノイズがあったとしても、精度が高い計算結果が得られます。

◼️特許発明の技術的意義

(1)量子計算の負荷が減らせる

 VQE(Variational Quantum Eigensolver)等の量子アルゴリズムを用いた量子化学計算は、10年後であっても、ハードウェア資源の制約が厳しく、作業コストもかかる計算であると想定されます。特許発明(QSCI : Quantum-Selected Configuration Interaction)により、VQEの最適化が完全に収束する前の計算結果、あるいは、ノイズが多いVQEによる計算結果を、高精度な計算結果に引き上げることができます。

(2)人間に理解しやすい結果が得られる

 VQEは、電子の波動関数を構成する基底の重み係数を直接算出することができないため、波動関数を人間が理解できる数式として得ることができません。しかし、特許発明(QSCI)は、量子コンピュータにより得られた基底を使って、古典コンピュータによる量子化学計算をおこなうため、電子の波動関数を構成する基底の係数を陽に算出することができます。更に得られた波動関数を使って、物質の様々な性質を計算することも可能です。

◼️なぜ量子化学計算を古典コンピュータで実行することが困難なのか ? ~ 多電子系のSchrödinger方程式をFull CIで解く方法と

  その困難さ ~

 

 量子化学計算において、考え得る全ての電子軌道を考慮して電子の波動関数を求める方法をFull CI(Configuration Interaction)といいます。全ての励起状態を考慮する、最も厳密で理想的な計算です。 複数の電子を有する系のSchrödinger方程式をFull CIで解く方法は以下のとおりです。

 

①スピン軌道の定義

 考慮する空間軌道をφi (r)、i=1,2,…,L、r:電子の位置、L考慮する空間軌道の数とします。Lの値は、通常、分子を構成する原子数×原子1個あたりの電子軌道数です。

 また、α、βを電子のスピンsにより値が変わる数とします。

​スピン軌道は、以下のように表現できます。

スピン軌道の個数は2×L個となるので、2L個のインデックス 1α, 1β, 2α,2β,…,Lα,Lβを、1,2,3,…, Mと振り直し、

スピン軌道を

とします。ここで、M=2Lです。

②slater行列式により分子全体の波動関数Ψを作る

  電子数をN個とします。

  {ψi}、i=1,2,…,Mの中から、N個を選んでSlater行列式をつくります。

  M個の中からN個を選ぶ組み合わせは、C(M,N)種類あるので、この組み合わせのindexを、

    k = 1,2,3,.., Kとします。K = C(M,N)です。

  選択されたN個のspin軌道をψk1,ψk2,…,ψkNとします。

  Slater行列式は次式となります。

                         Ck : 係数

③Schrödinger方程式を行列の固有値問題に帰着させて解く

  Schrödinger方程式   HΨ = EΨ,    H:ハミルトニアン、E:エネルギー

  に、Slater行列式の線形結合で表した波動関数

を代入し、未知の係数Ckを求めることを目指します。

​上記の式を、ヒルベルト空間上の抽象ベクトルで表現すると以下のようになります。

Schrödinger方程式にSlater行列式を線形結合した波動関数を代入します。

更に、両辺について          で内積をとります。

hlk、plkを、

​と定義すると、

と表現できます。

Hをhlkを要素とする行列、Sをplkを要素とする行列、CをCkを要素とするベクトルとすると、Sが単位行列となることを考慮すると、Schrödinger方程式は、

となり、行列Hに関する固有値問題に帰着します。

このように説明すると簡単に解けそうなのですが、実際には行列Hの次元数K = C(M,N)が天文学的な大きさになるので、多電子系のSchrödinger方程式をFull CIで解くことは困難です。

◼️ 量子コンピュータを援用して多電子系のSchrödinger方程式を解く方法 ~ Quantum-Selected Configuration Interaction(QSCI)の原理 ~

 

 前述のとおり、スピン軌道M個、電子N個の電子の波動関数は、次式で表されます。

 項数K = C(M,N) 個が天文学的な数になることが問題なので、重要な項だけ取り出して計算しようというのがSelected Configuration Interaction(SCI)のアイデアです。

 ここで、どのようにして重要な項を選ぶかが問題となるわけですが、Quantum-Selected Configuration Interaction(QSCI)では、量子コンピュータによる観測結果に基づき、重要な項Φkの選択をします。

 なお、量子コンピュータはNISQであり、ノイズにより計算結果は誤差が多いと想定します(完全な解が簡単に得られるなら量子コンピュータの計算結果をそのまま使えば良くQSCIの意義は小さい)。

①量子コンピュータで量子化学計算を実施

 量子ビットの並びがSlater行列式Φkに対応します。例えば、スピン軌道M = 4、電子数N=2の場合、1番目と3番目のスピン軌道に電子が入っている状態は|1010>と表されます。

 また、

となり、量子ビットの並びがΦkに、量子ビットの係数がCkに対応します。

 また、電子の数がN個であるという制約を守るために、値が1となる量子ビットの数をN個に保つための演算子(生成・消滅演算子)の導入、古典コンピュータの方が効率的な積分演算の実施などをして、ハミルトニアンを適切な形に変換します。

 この上で、VQE等の量子アルゴリズムを使って、エネルギー順位が十分低い|Ψ>を生成します。

②量子ビットの測定

 VQEにて生成した|Ψ>をNs 回測定します。

 ここで、Ns回の測定結果を、以下のように表現することにします。

具体的なイメージが湧きやすいようにスピン軌道M=4、N=2とすると、例えば、

のような観測結果が得られます。

③重要な基底の選択

 |Ψ>の観測結果は、重要なスピン軌道を選択する量子ビットの並びほど、出現頻度が高くなります。そこで、

から、出現頻度が高いものから順番にR個選択します。

 選択された量子ビット列を、インデックスを振りなおして、                                       とすると、

                                        に対応するスレーター行列式Φkが、選択されるべき重要な基底になります。

 

スピン軌道M=4、N=2の場合、例えば、|0101>が選択されたとすると、2番目と4番目のスピン軌道に電子が入っている状態に

対応するΦkが選択されるべき基底となります。

④古典コンピュータによる量子化学計算

   SRを選択されたΦkのインデックスkの集合とします。

  を解くのですが、未知係数Ckの数は、もはや天文学的な個数ではなく、R個にすぎないため、古典コンピュータで十分に解けます。

◼️請求項の分析(技術範囲の分析)

 請求項1について、構成要件毎に技術的な内容を説明します。

 

 

 表 特許発明の構成要件の解説

2026年6月1日 田中洋一

​©Hatsumei Japan Patent Firm

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